アルバムのオープニングのこの曲はエンジニア赤ちんの大のお気に入りだ。録音初日1曲目の難曲Ninjaが終了、全員ほっとしたところで息抜きに演奏しようよ、という雰囲気で録音した。こういうときに名演ていうのは出来るのですなぁ。今回、曲の構成については手直しが必要ないように準備万端で臨む方針だったが、この曲だけまとまらなくて少しいじった。それがまた良い結果になったりしてほんと音楽っておもしろい。フェリーニの映画でわけがわからないシーンで変な音楽あるじゃん、あれやりたいんだよね、なんていう無茶苦茶な説明でセッションを開始。リディアン7thというスケールが気に入ってて(ファが#、シがb)、それを使って曲が出来ている。東中火の玉ボーイのエンディング「ラム亭のママ」小田島さんのソロでもこのスケールを指定してる。持ってる人は聞きなおしてみて。明る暗いというかなんというか独特の表情をもってるスケールだ。現場手直しの部分は曲の頭、ウパウパと聞こえてくるバックリフ。メインテーマから一部だけを抜き出したリフを最初に持ってくることにした。メインテーマを憶えて一緒に歌ってみるとウパウパのタイミングが一致するはずだ。格好良く説明すると、潜在意識に訴える予告編で曲が始まるといったところか。サックスソロの前にエンディングのリフをひと回しだけやるってのも予告編だ。このアルバムで何回か予告編手法を挑戦している。この曲の成功にはもうふたつの瞬間がある。ひとつはやんべがマレットを持ったとき曲の表情が一変し、ふたつめはエンディングで近藤だいちゃんがソロをはじめたとき。だいちゃんソロは指定してない、つまり自発的ソロでサックスでちゃちゃを入れてる。構成を決めないでフェリーニ風でさ、なんていう説明でああなっちゃったわけ。文句なしの名演。ところで7th一発の曲ってけっこう好きで、ガストロノミック一曲目もそうだ。 エリントンからタイトルだけ頂きの曲。この曲はDSD録音の威力全開だ。世界がぱっと広がる印象を受ける。1曲目が名演ならこちらは名曲。自慢してばかりですんません、ほんとにそう思うんだもん。一時期ライ・クーダーの「JAZZ」を聞き込んだことがあるがなんとなく影響受けたかな。でもそれはアレンジ上のことで元が違う。元は息子ハルのために作ったXTC風歌ものだったのだ。おまえがはたちでおれ65、なんてのん気な歌詞がついてたのだがやっぱりインストで統一したくなっていじり回してたら突然良い曲になった。今回唯一のテナー使用曲。久しぶりに真面目に練習した。東中にいたころメンバーに、テナーが調子出なくてさなんてぐちったら、あの楽器だけは真面目にやらないと音に出ます、なんて言われへこまされた。ソロなんだしやるときはやります。なんてったって15歳のときに親に買ってもらった持ったまんまオールドのセルマーマーク6だもの。なべちゃんの持ち替えウクレレのもの凄いフレーズは、テイクが進むごとに、渡辺欲が出ちゃいました、の名言とともにとんでもないものになった。一度さりげなく終わる2段式エンディングは赤ちんが仮ミックスでフェーダーを絞るタイミングを間違うくらいおしゃれ。 映画バグダットカフェに出てくる決めフレーズをタイトルにした曲。女主人が追い出した亭主に「おべんちゃら言ってんじゃないわよ」と怒鳴ってる場面で登場する。曲はこのところお気に入りの7拍子。東中ファースト「明星」でも7拍子の曲を作っている。ソロアルバムで音楽生活を仕切り直しという気持ちもあって今回も作った。一番元気な曲だ。今回メインのキーボードをオルガンにしようと思っていたので、オルガンフィーチャーの曲を用意した。オルガンと言えばジミー・スミスのザ・キャットでしょ、というつもりの曲調。だいちゃんにいきなり譜面を見せて、7拍子なんだけどテーマやってソロ弾いてなんて言ったら、20回くらい繰り返しテーマを練習させられた。だいちゃん、すんませんでした。素晴らしいオルガンだ。 姪に作った曲。7月20日に生まれたのでこの題名にした。平成15年から海の日は7月の第三月曜日だそうで、このままだと姪の誕生日は移動しちゃうことになるけどまあいいでしょ。金津宏バンドを手伝ったときにリーダーきんちゃんにあげた曲だが、なかなかレコーディングしないので取り返して今回収録。明るい楽しい夏休みな曲だ。これまたおしゃれなエンディング付き。フェードアウトの予定はやめて最後まで使うことにした。なんとなくポルトガル語もつけてみた。 慈しみながら心を込めて作曲したアルバムのタイトル曲。ここで説明しきれないくらいの文章量になった。それをみんなに約束した裏解説にしよう。esperYから買ってくれた人に一緒に送ります。 東中在籍後半になぜか葬式に流す音楽にこだわった時期があって、その時に作った曲が元になっている。母親に、お父さんのためにアルバムを作ろうと思うんだと言ったら、悲しい曲を一曲入れてねと言われてこの曲を仕上げた。盲目のピアニスト梯剛之さんがショパンコンクールで葬送行進曲を演奏することにこだわるというテレビ番組をみた。彼はその曲の中に希望を見つけたのだという。番組を見て以来、悲しさと絶望のなかの希望ということが頭に残っていて、この曲にも影響している。楽器は最近手に入れたアルトクラリネットをフィーチャー。この楽器の特徴としてレジスターキーの折り返し部分の音色の変化が少ないというのがある。レジスターキーはサックスでいうオクターブキーで、クラリネット族は最初の音域が3次倍音の多いシンセサイザーでいうノコギリ波のような音がする。暗く甘めの音だ。次の音域でいきなり明るくなるのだけれどアルトクラはその変化がなぜか少ない。それ以外の特徴は音の低いクラリネットになってしまうのでバスクラで代用されてしまうことが多いようだ。でも吹いてみると味があって良いんだよ。 東中で演奏した曲。今回大活躍をしてくれた渡辺等に敬意を表してベースバトルにアレンジした。ビッグバンド風の曲のテーマとベースラインを交換しながら演奏して、最後にソロバトル。めまぐるしく役割が代わるのでパニックを起こしそうになり、それに耐えて演奏するのもまた良しと。エンディングは偶然ああいうふうになった。なべちゃんとはブランクはあるけれど長い付き合いだ。以心伝心。ところでこのソロバトル、サックスは16部音符なのに対してベースは3連系なのが興味深い。こんなところにメロディー楽器とリズム楽器の性格の差が出るんじゃないかな。この題名は意地悪な店員のことで、「マラカスですか、マスカラならございますが」。以前江古田の定食屋さんで、なましょうがください、と言った客に平然と「生姜焼き一丁」と大声で答えた店員はとてもジェントルだ。 息子ハルに作った曲。DSDはごちゃっとした曲が苦手なところがあり仕上げに苦労した。苦労した甲斐があり、息子よ人生にはいろんなつらいことがあるんだぞ、負けるなよ、幼稚園で女の子に泣かされてもがんばれ!ハルという父親の励まし感が見事に表現されている。そんな説明はしなくても演奏に参加したメンバーはもうひっちゃきになって演奏してくれた。男はみんなわかるんだよなあ。 このアルバム唯一のボサノバ調にして恋愛がテーマの曲。これもきんちゃんバンドから取り返した曲で、きんちゃんバンドのとあるメンバーと彼女の会話「あなたに会ったのは運命なの、偶然なの?」が気に入って曲名に使った。このバリトンはかなりマリガンスタイルで吹いてる。 冒頭でも書いたとおり難曲。自分で吹くつもりだったけれど歯が立たず、録音前日トロンボーン松本治氏に電話して急遽参加してもらった。松本大先生はfishermen tit totでこの曲を吹いていたのだ。ドラムの矢部浩志がにやにやしながらひとこと、変な曲、と言った。そういえばアルバムのほとんどの曲はギターを使って作曲したがこの曲だけはピアノで作った。だからかもしれない。作曲中はカーティス・フラーのブルーゼッテを意識したのだがただの不思議な曲なのかな。tit totのとき、まりさんに曲の最後のフレーズ手助けしてもらったんだった。 ボルヘスの永遠の薔薇・鉄の貨幣から曲名をとった。音版マジックリアリズムのつもりで仕掛けをした。まず5拍子。速いテンポの5拍子は転ぶ。なぜかというと5拍子とは6拍子(6/8拍子、いわゆるハチロク)から6拍目を抜いたもので、演奏者は通常6拍目で息継ぎをする。つまり息をとめて演奏しているようなものなのだ。だから前につんのめる感じになる。そして曲のテーマ、サビ、ブリッジのはじまりのコードは全部同じコード(エンディングは違う)、これでなんとなくどうどう巡りしているかんじが出せたかな。同じコード進行で2種類のメロディーを作った。ソプラノソロの前にエンディング予告、そしてソロは7小節単位。説明くどくてすんませんマジックリアリズムなもんで。曲がよければどうでもオッケーなんだけどね。鶴ちゃんのキーボードは疾走感ばつぐん、まささんのジャンベは言うことなし、ソプラノもがんばったよ。 エンディング。たくさん種類のメージャーコードとたったひとつのマイナーコードから出来ている曲。そのマイナーコードが無いと調性がとれない微妙な曲なのだが、表情は明るい。父が戦争から帰ってきて最初に書いた軍艦の絵がある。絵を生涯の趣味にした父の原点とも言える楽しい絵だ。書きたくてたまらなかったのだろう。父の楽しい思い出は永遠のあの絵の中で、鉄の船に乗って生き続ける。曲はゆっくりフェードアウトしていく。 |